ここ最近に限った話ではありませんが、レコード各社はSHM-CDやUHQCDなどの高音質を謳うCDをリリースしています。
PCオーディオ視点で見た場合、これらのCDを買ってリッピングすると良い音質になるのでしょうか?それをメーカーの宣伝内容から読み解いていきます。
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まとめようと思ったきっかけ
きっかけは、筆者のこのツイートになります。
SHM-CDやUHQCDなどの高音質CDが相変わらずよくリリースされますが、所詮44.1kHz/16bitのPCMの器にしか過ぎないので、個人的にはどうかなと思ったりします。
— ハイレゾ情報局 (@hires_info) 2017年5月21日
ご覧の通り、筆者はこの傾向について良く思っていません。一部の方から賛同いただけたので、似たようなことを考えている人は案外多いのではないかと思っています。
高音質を謳うCDには2種類ある
- 素材や製造プロセスを見直し、高音質を謳うCD
- 高スペック音源を収録したCD
CDは44.1kHz/16bitのリニアPCMを収録した器であると見ることができます。
前者は器の物理特性が従来のCDより優れたものになります。後者は、高音質な音源を特殊な技術を使ってCDの規格に収め、対応デコーダーを使うと44.1kHz/16bitを上回るスペックの再生することができるものになります。
素材や製造プロセス改善で高音質を謳うCD
従来のCDは、プラスチック部分にはポリカーボネート樹脂、反射層にはアルミを使っています。この手のCDでは、素材や製造プロセスを改善することで光学特性を従来のCDより高めたものになります。
厳しい見方をすると単に器の質が良いだけであって、44.1kHz/16bitのPCM音源を収めていることには変わりません。
なぜ高音質を謳うのか?
CDというのは、赤色レーザーを記録層に当て、その反射光を読み取ってデジタル信号を解釈し、最終的に音として出力されます。
反射光は保護層を通過するため、保護層の濁りなどで信号が変化する場合があります。実際は、ある程度変化してもエラー訂正機能を使い、元の信号に復元されます。
この手のCDでは、保護層をできるだけ透明な素材にして反射光を正確なものにします。その結果音質が良くなるとされています。また反射層をアルミ以外にして、光の反射率を高めるという製品もあります。
高音質CD:SHM-CD
開発メーカー:ユニバーサルミュージック、JVCケンウッド
SHM-CD (Super High Material CD)は、通常用CDとは別に液晶用パネルのポリカーボネート樹脂を採用したCDになります。
液晶用パネル用のポリカーボネート樹脂は、透明性が高いため音質向上に寄与すると言われています。また、さらに反射層にプラチナを採用した「プラチナSHM」も登場しています。
高音質CD:UHQCD
開発メーカー:メモリーテック
UHQCDの前身はHQCDになります。HQCDでは、通常用CDとは別に液晶用パネルのポリカーボネート樹脂を採用し、さらに反射層を従来のアルミより反射率の高い独自合金にしたものになります。
UHQCDでは、ポリカーボネートではなく、凹凸の転写にフォトポリマーという樹脂を使うことで、再生装置がより読み取りやすいように記録層が形成されるようになっています。
参考:UHQCD
高音質CD:Blu-spec CD 2
開発メーカー:ソニー
Blu-spec CD 2の前身はBlu-spec CDになります。Blu-spec CDでは、Blu-ray Discの製造技術を生かしているのが特徴です。
Blu-ray Discの凹凸は、CDと比べると遥かに細かくなります。その技術をCDにも応用することで、より正確な凹凸を作ることができるというのがBlu-Spec CDになります。素材には、高分子ポリカーボネート樹脂を採用しています。
更にBlu-spec CD 2では、カッティングプロセスをさらに進化させることにより、より正確な凹凸ができるようになりました。
高音質CD:CRYSTAL CISC
開発メーカー:メモリーテック
CRYSTAL DISCは、素材にポリカーボネート樹脂ではなくガラスを使ったCDのことです。その透明度はポリカーボネート樹脂と比べるとさらに優れており、「究極のCD」とも言われています。
また、ガラスが使われている分ディスクに重み生じるため、ディスクの回転が安定し、信号が安定して読み出せるようになるというメリットもあります。
こう書くと非常に優れたCDであるのですが、驚くべきなのはその価格になります。1枚10万円以上するなど、明らかにマニア向けの製品ではありました。
参考:CRYSTAL DISC
その他、素材違いで高音質を謳うCD
- APO(アモルファス・ポリオレフィン):素材にAPO樹脂を使うことにより、ポリカーボネート樹脂より優れた光学特性を確保したCDです。
- ARTON(アートン):素材にARTON樹脂を使うことにより、ポリカーボネート樹脂より優れた光学特性を確保したCDです。
- ZEONEX(ゼオネックス):素材にZEONEX樹脂を使うことにより、ポリカーボネート樹脂より優れた光学特性を確保したCDです。
- ゴールドCD:反射層に金を使うことにより、アルミの反射層より反射率が優れたCDです。
これらのCDをリッピングして再生した場合の音質は?
音源がリマスタリングされていない限り、音質は従来のCDをリッピングした時と一緒になります。
リッピングして音源ファイルにすることで、器の物理的特性が関係なくなるためです。
音源スペック的に高音質なCD
これらのCDでは、高音質な音源を特殊な技術を使ってCDの規格に収め、対応デコーダーを使うと44.1kHz/16bitを上回るスペックの再生することができるものになります。
通常の再生装置では44.1kHz/16bitのスペックで再生され、デジタル出力して対応デコーダーを通すと、44.1kHz/16bitを上回るスペックで再生されるようになります。
HDCD
開発メーカー:パシフィック・マイクロソニックス(現在はマイクロソフトと合併済み)
HDCDは、1996年に提案された規格になります。対応デコーダーを通すと、44.1kHz/20bitのスペックで再生することができます。
HDCDかどうかは、パッケージにHDCDのロゴが付いていることで見分けがつきます。しかし、ロゴが付いていなくても実はHDCDだったということも少なくありませんでした。
筆者の手持ちCDを見る限りでは、2000年頃にクラシック音楽を中心にHDCDが集中的にリリースされていました。
現在では、foobar2000のHDCD Decoderなどにより、無料で44.1kHz/20bit再生できる環境が揃っています。
MQA-CD
開発メーカー:メリディアン・オーディオ
MQAは、2015年にメリディアン・オーディオから発表されたエンコード技術になります。MQA-CDの見え方はHDCDと似ており、MQAデコードに対応していない製品であれば44.1kHz/16bit、MQAデコードに対応していない製品であれば176.4kHz/24bitのスペックで再生することができます。
今のところMQA-CDを再生するハードルは高く、メリディアン・オーディオからライセンスを受けた製品しかMQAデコードができないため、HDCDのように無料で手軽に再生環境を整えるという状況には至っていません。
これらのCDをリッピングして再生した場合の音質は?
リッピングをすると、音源ファイルは44.1kHz/16bitのスペックとして扱われます。
再生時にデジタル出力した場合、出力先のデコーダーがHDCDもしくはMQAに対応している場合、音源に埋め込まれている信号を検知し、44.1kHz/16bitを上回るスペックで再生されるようになります。デコーダーがこれらに対応していない場合は、通常のCD音質通りの44.1kHz/16bitで再生されます。
PCオーディオの視点で高音質を謳うCDは有効であるか
長々と書いてきたように、高音質を謳うCDにも2種類あります。
- 素材や製造プロセスを見直し、高音質を謳うCD ⇒SHM-CDやUHQCD、Blu-Spec CD 2など
- 高スペック音源を収録したCD ⇒HDCD、MQA-CD
PCオーディオでは最終的にCDをリッピングする前提になるため、前者のCDは買ったところで高音質の恩恵を受けることができません。逆に後者のCDは、HDCDやMQA-CDに対応しているデコーダーが搭載されている製品を持っていると、高音質の恩恵を受けることができます。
購入の際は、メーカーの宣伝文句に踊らされずに、どちらの製品であるかを見極めるようにしましょう。これを知っているだけで無駄な出費を抑えることができるようになります。
名前はまだない says
録音原版のスペックが低いのに、HDCDやMQA-CDでは変換してスペック上でハイレゾにしてるからあまり意味ないと思う。
だったらCDのまんまのスペックで吸い出して、市販ソフトで24bit 192kHzなりdsf(DSD)フォーマットなりに自分で変換するほうがいい。無料のもあるし。後者は再生機器が必要だけど。
でもこれらのスペックの音楽を再生するのならそれなりのスピーカーが必須。じゃなければ宝の持ち腐れ。いくらハイレゾ対応を謳っていても卓上の安物スピーカーでの再生ではハイスペックの音は再生できません。