前回は「2.PCオーディオのメリット・デメリット」について説明しました。ここではある程度デメリットを補えるようなハードの選定を考えていきます。
Contents
用意するもの
- パソコン(PC)
- 外付けハードディスクまたはNAS ※データ喪失を避けたい方向け
- DAC
- アンプ
- スピーカー
接続のイメージ
PCオーディオの接続基本形は、以下のようになります。PCで音源データを再生すると、音声のデジタル信号がUSB DACに行き、デジタル信号をDACでアナログ信号に変換します。あとはそれをアンプで増幅してスピーカーに出力します。
上記はあくまでも基本形になります。最近ではDACが内蔵されたアンプや、DACからアンプまでを内蔵したアクティブスピーカーも出ています。
パソコン(PC)の選定指針
今どきのPCは、音楽を再生する上で十分なスペックを持ち合わせています。そのため、気を付けるポイントは以下の点になります。
- 音源データを保管するための十分な記憶容量があるか
- 音源データを再生しているときの本体から出る雑音は十分に静かであるか
音源データを保管するための十分な記憶容量があるか
基本的にPCはご自身のライフスタイルにあったもので良いです。家庭の特定場所でしか使わない場合、据え置きタイプの製品が画面が大きく見やすくて操作しやすいので、利用シーンに応じて検討材料に入れると良いでしょう。
見るべきポイントは仕様表の「ストレージ」になります。値が大きければ大きいほど良いです。将来的にシステムで消費する容量を100GB程度と見込んでおけば、まず足りなくなることはないでしょう。残りの容量を音源データの保管に割り当てることを考えます。例えば、容量が1TB (=1000GB)あるPCであれば、900GBが音源データの保管に割り当てられる容量となります。
筆者の実環境の目安ですが、アルバム数における容量の消費状況は以下通りになります。ご自身で計算して、おおよその保管したいアルバム数の目安としてください。
- ハイレゾ音源のアルバム:300アルバムで約400GB (1アルバムあたり1.33GB)
- CD音質音源のアルバム:1600アルバムで約700GB (1アルバムあたり0.43GB)
音源データを再生しているときの本体から出る雑音は十分に静かであるか
PCは発熱すると、内部の排熱ファンが稼働しノイズになることがあります。このノイズが大きいと、音源再生時に音楽とノイズが一緒に聞こえてしまいます。
筆者の経験上、騒音レベルが19dBを割り込むことを謳っているPCだと音楽再生時のノイズが気にならないかと思います。ただし、実際にうるさいかどうかの確認は困難です。その理由としては以下の2点があげられます。
- そもそも騒音レベルについて情報がある製品が少ない
- 電気店で現物を見られたとしても、周りの騒音の影響で実際の騒音レベルについて耳で確認を行うことが困難である
一番確実なのは、ファンレス(=排熱ファンがついていない)の製品を購入することになります。これにもデメリットがあり、ファンレスPCはファンレスになる分排熱が少ないパーツが使われます。排熱が少ないパーツというのは、基本的に性能が必要最低限になるため、動画の編集などの高い性能を必要とする処理には向かなくなってしまいます。ファンレスPCを購入する場合は、音楽再生+Webページの閲覧程度の用途で割り切っておくのが良いでしょう。
外付けハードディスクまたはNASの選択指針
設置の手間が増えますが、外付けハードディスクやNASを導入することをお勧めします。その一番の理由は、ハードディスクが壊れてもデータを維持する仕組み「RAID(よみ:レイド)」を使える機種があるからです。
外付けハードディスク・NASのどちらを選ぶか?
各機器の特徴
外付けハードディスクとは、USB接続でPCとつなぐためのハードディスクドライブ(HDD)になります。PCと1対1となるように有線接続するため、常にPCの傍らにある機器になります。モノが単純であるため、コストが安いのが特徴です。
NASはNetwork Attached Storageと呼ばれ、家のネットワーク内からアクセスすることができます。PCから見ると、ネットワーク的にNASにアクセスできれば良いため、家庭内の無線LAN(Wi-Fi)を経由でアクセスできるなど、利便性は外付けハードディスクに勝ります。また、複数のPCからも同時にNASにアクセスしてデータの読み書きをすることができます。
選択指針
各機器の特徴をまとめると、望ましい選択指針は以下の通りになります。
外付けハードディスクを使う方が望ましい場合:
- 安く済ませたい
- PCが据え置き型である、もしくはあまり持ち歩くことがない
- 使うPCが1台である
- 家庭内に無線LAN環境(Wi-Fi)がない
- データ転送はサクッと終わらせたい
NASを使う方が望ましい場合:
- 家庭内に無線LAN環境(Wi-Fi)がある
- PCをよく持ち歩く
- 使うPCが複数台ある
- データ転送に多少時間がかかっても良い
外付けハードディスク・NASに求められる条件
話は戻り、これらの機器が必要なのはハードディスクが壊れてもデータを維持する仕組みを導入することになります。そのためにはRAIDが使えることが必要になります。
大まかにRAIDを説明すると、複数台のハードディスクを組み合わせることにより、データ転送の高速化やデータ保管の冗長化を図る仕組みになります。
通常であれば1台のハードディスクが壊れた場合、それだけでデータがすべてを失ってしまいます。RAIDの仕組みを使うことにより、1台が壊れてもデータを維持することができるようになります。この仕組みを使う場合RAID1、RAID5、RAID6のいずれかに対応した製品が必要になります。
ただし、RAIDがあるから大丈夫ということはなく、ハードディスクを束ねている大元の筐体が壊れてしまうとデータの読み書きができなくなってしまうリスクはあります。それでもハードディスク1台だけでデータを保管するよりは、データ喪失のリスクを和らげることができます。
RAID1, 5, 6の違い
各RAIDはそれぞれの違いがあります。予算や容量、対応したいリスクによって使い分ける必要があります。よくわからない方はRAID1に対応した製品を買っておくと良いでしょう。
RAID種類 | 必要な HDD台数 |
コスト | 説明 |
---|---|---|---|
RAID1 | 2台 | 低 | RAID1は、HDDが2台で構成されます。2台のHDDに同時に同じ内容を書き込むため、片方のHDDが壊れてももう片方でデータが維持されます。 |
RAID5 | 3台以上 | 中 | RAID5は、HDDが3台以上で構成されます。それぞれのHDDにデータが分散して記録され、またそのうち1台が壊れてもデータが復元できるようにパリティという誤り訂正用のデータが書き込まれます。RAID1より大きい容量を確保したい場合に向いています。 |
RAID6 | 4台以上 | 高 | RAID6は、HDDが4台以上で構成されます。それぞれのHDDにデータが分散して記録され、またそのうち2台が壊れてもデータが復元できるようにパリティという誤り訂正用のデータが書き込まれます。RAID1より大きい容量を確保したい、かつRAID5よりさらに耐障害性を上げたい場合に向いています。 |
USB DACの選択指針
USB DACは最低限以下の機能が付いているものを選べば問題ありません。
- ASIOドライバーに対応していること。
- DSDに対応していること。DSD NativeやDoP (DSD over PCM)に対応していること。
- できるだけ多くのサンプリング周波数、ビット数に対応していること。
なぜUSB DACが必要なのか?
PCには音声端子が付いているのに、なぜUSB DACが必要なのか疑問に思った方もいるかもしれません。その理由は、以下によるものです。
- PCの音声端子から出た音声信号は、PCのノイズが多く混じっている。そのため、音声信号の処理をUSB DACに任せることによって、PCからのノイズを極力排除できる。
- DSDのようなハイレゾ音源は、PCだけで処理できないことがある。
要は、音質を確保するためにUSB DACが必要なのです。
アンプとスピーカーの選択指針
アンプとスピーカーの選択指針はありません。お好みのものをお選びください。
また、スピーカーで「ハイレゾ対応」とうたっているものがありますが、筆者はこの表記は重要ではないと思っています。最も重要なのは、耳で聴きとれることができる可聴音域の音が、いかに音源に対して忠実に再生できるかになるからです。
ハイレゾ対応を謳っている真意は「周波数特性でハイレゾ音源の領域を再生できる」「ハイレゾ対応を謳った方が売れる」というところにあると思われます。ハイレゾ対応していないスピーカーでもハイレゾ音源の再生はできます。
参考:筆者のPCオーディオ環境
参考までに、筆者のPCオーディオ環境を書きます。
- PC:OLIOSPECで購入したカスタマイズの静音PC(2013年購入)
- NAS:QNAP TS-569L (RAID6構成)
- DAC:exaSound e20
- アンプ:Esoteric AZ-1s
- スピーカー:ELAC C330
当時の値段はそれなりにしましたが、今の音に満足しているため買い替えを行っていません。どれも出てから数年が経過している製品です。
次回予告
次回は、PCオーディオの環境のハードをそろえた後、アプリはどうすれば良いかを見ていきます。
どのようなアプリを使えば良いかという具体的な名前は、敢えて次回では触れません。まずは基礎を抑えることで、最終的にはご自身で選定までできるようになるからです。
次回の記事:PCでオーディオ環境を整えるための第一歩:4.音源再生のために用意するもの(アプリ編)
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